9月16日(土) ■ 『古代朱無骨椀』 ■ 無骨なスタイルに拘ってみました。。。。。。。 今回 『古代朱無骨椀』 の製作をお願いしたのは、福井県鯖江市の越前漆器の製造メーカーさん。 『菖蒲の隠者』の本業、業務用和食器の販売で、主に「漆器」を取り扱う際にお願いしていたメーカーさんです。 お父様が 『木地師』で、以前は『木地挽き』の伝統工芸士さんでもありました。 (なぜ以前としているのかは、伝統工芸士にも登録料など色んな負担があるようで、制度に疑問を感じて辞退されたとの事でした。 日本伝統の大事な技術で、中々後継者が育たない環境にあって、もう少しこのような伝統工芸に対しての優遇措置も考えてもらいたいものですね。 誰もが簡単に手にしようと思っても出来ない技術なのですから。。。 今では、越前漆器業界でも『木地師』さんは4、5人しか残っていらっしゃらないようです。。) 今回は、この『木地挽き』の職人の技を紹介させていただきます♪ 木製の『漆器』の『木地』は、大きく分けて2種類の形状に分けられます。 お盆や重箱などの『角物』と、お椀や茶托などの『丸物』と呼ばれる物です。 今回の製品はお椀ですので『丸物』ということで、その製造過程をご紹介します。 ■ まずは材料となる木材から。。 主に欅(けやき)、水目櫻(ハンサとも呼ばれます)、栃(とち)、などの木が使われるようですが、今回は硬めの木材の欅(けやき)を使っています。 この木を使って『木取り』をしていく訳ですが、一般的に『丸物』には『縦木』と言われる材料の取り方をします。 『丸物』に『縦木』を使う主な理由は、変形しやすい『横木』に比べ、お椀にしたときに歪んだり変形しにくいためです。 『縦木』はまず丸太を輪切りにした物から、木目の芯をはずして『木取り』をしていきます。 『木取り』の際に、木目の芯をはずす理由は、芯を使うと後でヒビ割れなどの原因になるためです。 また木目の芯は、日当たり加減で必ず中心からずれていますので、丸太のサイズとお椀のサイズなどを考慮し、必要となる材料を有効に『木取り』をしていきます。 ⇒ 実際の『木取り』です。 輪切りにした面に、必要な『粗挽き』の大きさの印を墨で付けていきます。 芯をはさんで対角にしか取れないのでφ12cmお椀の場合、削っていく分を考慮すると最低でも直径で30cm位の太さの木が必要になります。 例えばφ15cmのお椀になると倍以上の40cm以上の木の太さの物が必要となる訳です。 ← まずは大雑把に鉈などでカットして。 旋盤でおおまかなお椀の形まで削って▼ 『粗挽き』の完成です。 材料の材木さえあればすぐにでも加工できそうですが、実際には木をしっかり乾燥させる作業もありますので、乾燥などの時間も考慮すると早くても3ヶ月は掛かる作業になります。 以上ここまでが、『木工所』さんでのお仕事。。。 ■ 木地挽きの職人 そしてここからが、『木地師』さんの出番です。 ロクロを使って削り上げていくため『ロクロ師』とも呼ばれるのは、焼物の成型にもちょっと似ていますね♪ 当然木地挽きには熟練の技術が必要とされます。 木地挽きの一番の難しさは失敗が出来ないという事です。 削りすぎた物はやり直しがきかないので、細心の注意を払いながらの根気と集中力が必要な作業です。 また木地の仕上がりがいいと最後の工程までがきれいに仕上がり、次ぎの職人さんも良い仕事ができると言います。 ← こちらが『粗挽き』の状態で、 デザインに忠実に削りだして行きます。▼ (こちらは通常のお椀のデザインです。今回の工程の説明はこの通常のお碗の木地挽きの過程でご紹介しております) 木地は『粗挽き』の肉厚分は自由に色んな形や大きさに削る事ができます。 今回の 『古代朱無骨椀』 もこの肉厚を活かして『肩張り』のデザインを施して貰っています。 この肉厚を活かした微妙なデザインが、木製品にしか出来ない利点で、木合や樹脂製品など成型物の製品には出来ない技です。 ■ 次に削る工程を見ていくと、まず削るためには道具が必要です。 木地を仕上げていく時のカンナは何種類かのカンナを使い、そのカンナ作りも『木地師』さんの大事な仕事です。 自分の思うようなカンナが作れるようになるまでに5年は掛かるそうです。 使う道具作りが大事というところも、焼物の『細工人』さんと同じですね。 ■ 切れ味にまで気を配って、入念に手入れした道具を屈指して、いよいよ削りに入っていきます。 ロクロに『粗挽き』の木地を固定して、まずは外側から削っていきます。 最初は一気に荒くカンナを入れ、形が整ってきたら、より慎重に削り上げていきます。▼ 簡単そうに言っていますが、職人さんの熟練した技術があるからこそ簡単に見えるだけで、実際には木の堅さや粘り具合など、長年の勘でカンナの力の入れ具合やスピードなど。。目には見えない微妙な加減で仕上げられていきます。 ⇒ 外側の削りがほぼ完成した状態で、形が合っているか確認します。 ← 最後に小刀をあてて仕上げます。 仕上げが上手いと、次ぎの工程の職人さんの仕事もきれいに進みます。 ⇒ 外側の削りが終われば、同じ工程で内側を挽いていき、デザイン通りの規格に仕上げていきます。 ← そうして完成した『丸物白木地』がこちら 右の『粗挽き』がダイエット前。。。 左がダイエット成功♪ という感じでしょうか♪ こうして『お椀』の木地の成型過程を見ていくと、まるで『焼物』の成型過程を見ているような錯覚を覚えます。。。 ■ 細工の職人 ← 『焼物』の『細工士』さんによる成型過程も紹介していますので、興味のある方は是非見比べてみてくださいね。 ■ 以上のような工程を経て出来た、今回の 『古代朱無骨椀』 の木地がこちら。 一般的に全体に丸みのある『お椀』に対し、『お椀』の下の方に『面取り』を施し、角を持たせて見ました。 ⇒ 底から見るとこんな感じです。 白い部分が『お椀』の断面図です。 渕は薄く、下に行くに従って肉厚になり、『肩張り』の部分は特に肉厚になります。 外見は外側は角張っていますが、内側は普通の『お椀』と変わらない曲面になっています。 この部分が木製でないと出来ない技で、成型物の製品では、肉厚の部分の再現が難しく、内側も外側と同じような角のある形状になってしまいます。 更に『肩張り』の底の方の『面取り』にも、少しカーブを付けて削っていただきました。 この少しのカーブが、角のシャープさを増し、また、手にした時の指の掛かりを良くしています。 ■ 塗りの職人 『木地』が出来上がれば、次は塗りの工程です。 『塗り』の技法にも色々な種類があるようですが、今回出品の 『古代朱無骨椀』 は、『古代朱』や『銀朱』とも呼ばれる、ちょっと派手さを抑えた「朱」の『漆(うるし)』を使い、『目はじき塗り』 という『塗り』の技法で仕上げていただきました。 『目はじき塗り』 の特徴は、器の『木地』の木目が『漆(うるし)』表面に残って景色になることです。 『木地』自体に直接『漆(うるし)』を塗り、『木地』に充分『漆』を染み込ませていくことで、『漆』の表面に木目が浮かび上がります。 この 『目はじき塗り』 の利点は、通常の塗りに比べると弾力性に富み、『木地』と『漆』の定着度が強く、『木地』から『漆』が剥がれにくいという点です。 その代わりに、衝撃などで窪みが付きやすいというデメリットもあるため、材料となる『木地』には硬めの木材の『欅(けやき)』を使用することで、そのデメリットを抑えています。 『塗り』の工程にもかなりの手間が掛かっています。 『刷毛』を使って、丁寧に手で塗り上げていきますが。。。 (⇒画像は、高台部分を「黒」の「漆」で塗っている所です) ?@ 下塗り まず1回目の『塗り』では、『木地』に直接『漆』を塗り、染み込ませて行きます。 『木地』自体の持つ木材の毛羽立ちなどが残りますので、塗り終わって数日掛けて乾燥させる間に『研ぎ(とぎ)』という作業で表面に磨きを掛け、毛羽立ちなどを取り除きます。 (先の「木地挽きの工程」で木地の仕上がりがいいと、次ぎの職人さんも良い仕事ができる、というのはこのようなところからも伺えますね) ?A 中塗り ?@の作業を終え『漆』が乾いた状態で、その上から再び『漆』を塗り込んでいきます。 この時1度に全体を塗ることは出来ませんので、器の、 ◆ 外側の塗り ⇒ 乾燥 ⇒ 内側の塗り ⇒ 乾燥 ⇒ 高台の塗り ⇒ 乾燥 の順番で塗っていきます。 (単純に1工程の塗りでも、器の場所ごとに塗り分けていくので、実際には大変な日数を要している訳ですね) こうして全体を塗り終えた段階で、再度『研ぎ』の作業で表面を磨き上げます。 ?B 上塗り 同じように?Aの作業を再度繰り返しながら、最後に『仕上げ』といわれる作業で、『漆』の表面に浮き上がってきた、ゴミなどを丁寧に取り除き完成させます。 このように最低3回の塗りの工程を経て、ようやくやっと完成です♪ 材料の段階からすると大変な工程で、製作にもかなりの時間と労力が必要となるのがお解かり頂けるかと思います。 実際この 『古代朱無骨椀』 の製作も、計画したのは1年前のことで、昨年末の発表を目指したのですが、日程的に無理があったため、1年を経てやっと今回の発表となりました♪ ※ あまり大量な在庫を抱えることが出来ないので、在庫切れの場合は、再入荷にかなりお時間を要する場合がございますので、予めご了承下さい。 ■ この『お椀』の形状は、数年前に有田でプロジェクトされ、国営TVでも取り上げられ話題となった『究極のラー○ン鉢』と似た形状ですが、『漆器』の『お椀』では、昔から良く使われていた形状です。 『究極のラー○ン鉢』も、こういった『お椀』の形状を参考にデザインされたのかもしれませんね。 |